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長崎地方裁判所 平成5年(行ウ)4号 判決 1994年1月19日

原告

山口八郎

福家一男

坂本博二

被告

長崎県

右代表者長崎県知事

高田勇

右指定代理人

菊川秀子

外一〇名

主文

一  被告は、原告ら各自に対し、金六六〇円(合計金一九八〇円)及びこれに対する平成五年三月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文第一項同旨。

第二事実

本件は、原告らが処分庁を経由して農林水産大臣に提出しようとした審査請求書を被告林務課の職員が受理しなかったのは違法であるとして、国家賠償法に基づく損害賠償が請求された事案である。

一事案の概要(争いのない事実)

1  長崎県知事は、平成四年六月九日、県央開発株式会社から提出された森林法一〇条の二第一項に基づく林地開発許可申請書を受理した(以下「本件受理」という。)。

2  原告らは、右開発計画を受容できないとする諸行動を行なっていたものであるが、同年七月一六日、原告福家一男は、被告林務課(以下「林務課」という。)に対し、前記開発許可申請に係る農林水産大臣への審査請求を被告を経由して提出するため、同月二〇日に訪れると連絡した。

3  原告らは、同月二〇日午前一〇時、林務課を訪れ、同課長前田重人に対し、持参した審査請求書(<書証番号略>。以下「本件審査請求書」という。)を読み上げた。これに対し、右課長は、本件受理は行政不服審査法二条の「処分」にあたらないと考える等と説明した。

これに対し、原告福家は、持参していた「受理ならびに処分庁経由について」と題する書面(<書証番号略>)の一部を読み上げ、その後本件審査請求書を持ち帰った。

4  原告らは、右同日、本件審査請求書を農林水産大臣に郵便で提出し、同大臣は同月二二日にこれを受理した。

5  右大臣は、同年一〇月二六日、本件受理は行政不服審査法上の「処分」に該当しないとの理由で本件審査請求を却下した。

二争点

1  林務課長が本件審査請求を受理しなかったことは違法か。

2  本件審査請求書の不受理による原告らの損害。

第三争点に対する判断

一争点1(被告の不法行為の成否)について

1  事案の概要2、3、<書証番号略>によると、以下の事実が認められる。

原告らは、同月二〇日午前一〇時、林務課を訪れ、同課長前田重人に対し、持参した審査請求書(以下「本件審査請求書」という。)を読み上げた。これに対し、右課長は、被告として検討した結果、本件受理が行政不服審査法二条の「処分」にあたらないこと及び原告らが開発許可申請の申請者でないことから審査請求の要件を欠くと考えるので、本件審査請求書を受け取らないと決定したと伝えた。原告らは、同月一六日に連絡した際に、被告の右見解を伝えられていたため、「受理ならびに処分庁経由について」と題する書面を準備し、これを読み上げながら、審査請求に対する判断は審査庁で行なわれるべきである、処分庁を経由して審査請求をすることもできるのであるから、それに基づいて処理してほしい等と反論・要望した。しかし、前田及び同席していた被告林務課課長補佐松田元生は、原告らの再三にわたる受理・取次の要望に対し、本件審査請求書の取次は行なわない旨を繰り返し、その受取りを拒否した。そのため、原告らは、被告を経由して本件審査請求書を提出することを断念し、本件審査請求書を持ち帰った。

2(一)  右認定事実によると、林務課長前田及び同課長補佐松田は、原告らが本件受理を行なった行政庁(処分庁)としての被告に本件審査請求書を提出し、被告を経由してする審査請求を審査庁に取り次がないとの考えから、その受理を拒否したものと認められる。

ところで、行政不服審査法一七条一項は、審査請求は処分庁を経由してすることもできるとし、この場合には処分庁に審査請求書を提出して審査請求をするものとし、同条二項は審査請求書の提出を受けた処分庁は直ちにその正本(以下、便宜上、これも単に「審査請求書」という。)を審査庁に送付しなければならない旨規定しているところ、これらは審査請求人に処分庁を経由してする審査請求権を付与し、処分庁に審査請求書の受理・送付義務を課すものと解すべきである。

そうすると、本件審査請求を審査庁に取り次がないとの考えから、その請求書の受理を拒否した前田らの行為は、右受理・送付義務に反し、原告らの有する処分庁を経由してする審査請求権を侵害するものであるから違法というべきである。

(二) 被告は、処分庁を経由してする審査請求は審査請求が審査庁に届くための一つの便宜的な方法にすぎず、原告らが同じころに農林水産大臣に審査請求書を提出し得た以上、法的利益の侵害はないと主張するけれども、審査請求人に処分庁を経由してする審査請求権が認められる以上、他の方法で審査請求をなすことができるか否かに係わらず、右審査請求権の侵害をもって違法な法的利益の侵害というべきである。

また、被告は、原告らが、「受理ならびに処分庁経由について」と題する書面を予め準備していたこと等から、原告らには被告を経由して本件審査請求書を提出する意図はなかったかのように主張をするけれども、前記1で認定した交渉の経緯、右文書の内容に照らせば、原告らが被告を経由して本件審査請求書を提出する意図を有していたことは明らかであるから、被告の右主張は失当である。

さらに、被告は、審査請求は行政処分に対してのみ許されるところ、本件受理は行政処分に該当せず、原告らは本件審査請求につき審査庁の判断を受ける法的利益を有さないから、本件審査請求書を受理しなかったのは違法ではないと主張する。しかしながら、審査請求の対象とされているものが、行政不服審査法二条の「処分」に該当するか否かの判断も審査庁が行なうものであるから(処分庁にはその判断権はない)、審査請求の対象が「処分」に該当しない場合でも審査庁の判断を受ける利益がないとはいえないし、審査請求をすること自体の権利(いわばその申立ての権能)が否定されるものでもないから、この点の被告の主張も失当である。

3  以上のように、前田らの本件審査請求書の不受理は、原告らの処分庁を経由してする審査請求権を侵害する違法な行為であり、行政不服審査法一七条の文言及び原告らとの前記交渉経過から、少なくとも前田らに過失の存することが認められるから、被告は、本件審査請求書の不受理により原告らに生じた損害を賠償する責任を負う。

二争点2(原告らの損害)について

1 原告らは、平成四年七月二〇日、前田らから本件審査請求書の受理を拒否されたため、被告を経由して本件審査請求書を提出することを断念し、本件審査請求書を持ち帰り(前記一1)、同日午前一二時から午後六時までの間に諫早郵便局から、林野庁指導部治山課に宛てて、本件審査請求書を郵送し、九八〇円の郵便料を支出した(原告ら三名の平等負担。<書証番号略>及び弁論の全趣旨)。

右郵便料は、被告を経由してする審査請求が拒否されていなければ支出されなかったことは明らかであるから、被告は、原告らに対し、右郵便料相当額の損害を賠償すべきである。

被告は、直接審査庁に対し審査請求する場合に要する費用は、損害にはあたらないと主張するけれども、処分庁を経由してする審査請求が認められている以上、それが不当に拒否されたことにより支出を余儀なくされた費用は損害に該当するというべきである。

2 また、原告らは、本件審査請求の不受理により精神的苦痛を受けたとして慰謝料を請求しているところ、前記一1で認定した交渉経緯に照らせば、行政庁である被告から適切な対応を受けられなかったことにより、原告らが多少とも精神的苦痛を受けたであろうことが認められ(右精神的苦痛は、審査庁に対する本件審査請求書の提出がなされたことで慰謝されるものではない。)、その損害を慰謝するための金額は原告各自につき三三四円を下ることはないというべきである。

三よって、原告らが、被告に対し、郵便料九八〇円及び慰謝料一〇〇〇円、合計一九八〇円(各原告につき六六〇円)の支払を求める本件請求は理由がある。

(裁判長裁判官江口寛志 裁判官大島明 裁判官倉地真寿美)

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